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『ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ』 ジョージ・ソロス 著 講談社

難しそうな本だから、たぶん、最後まで読めないだろうと思っていた。
でも、彼の考え方が、非常に「腑に落ちた」ので、他にも読む本がたくさんあった中、時間をかけてちょっとずつ理解しながらゆっくり最後まで読んだ。
ソロスは警告するソロスは警告する
ジョージ・ソロス。ハンガリー生まれのユダヤ系アメリカ人で、第二次大戦後にイギリスの大学で学んだ後、渡米。金融業界で成功を治め、無一文の移民から一兆数千億円の富を築いた伝説の投資家。

戦後の世界金融の歴史は、そのまま彼の業績の歴史でもある。彼は、なぜ、生き馬の目を抜く変化の激しい相場の世界で君臨し続けてきたのか。

それは、小手先の技術ではなく、ひとえに「事実を徹底的に観察する」彼の姿勢と哲学に因るところが大きい。

彼の考え方の大前提としてあるのは
「私たちは世界の一部であるために、その世界を完全な形で理解しえない」
「人は必ず間違いを犯す」
ということ。

つまり、この世界で生きる人間は、誰も真に客観的になれないということ。
「事実」を理解するには、必ず、人それぞれの「解釈」が存在する。そして、人はその「解釈」に基づいて行動し、新たな「事実」を作り上げてしまうため、最初の「事実」からどんどん離れてしまう。
ソロスは、これを「再帰性」と呼んだ。「再帰性」は、相場の世界では、よく見られる。誤解が誤解を呼び、バブルや大暴落が発生することが珍しくないからである。

しかし、多くの業界関係者や経済学者は、彼の言うことを無視した。なぜなら、「完全」で「純粋」で「真に客観的」な数式や理論を構築し、経済情勢を説明しようとする彼らと大前提が異なるからである。

一つ問題なのは、「再帰性」を認めてしまうと「経済予測」というものが立てられなくなる。
「再帰性」を前提とした彼の投資手法は、次のようなものである。

まず、新しいビジネスモデルや金融商品が出てきた場合、これらのリスクや欠陥、そして、そのリスクに基づく人間の行動を分析すること。
このようにすれば、表面的な数字に振り回されることなく、相場の値動きを俯瞰して見ることができる。

そして、これらの分析に基づいて、市場の評価と実際の価値が大きくかけ離れていると判断した場合に、空売りなどで集中投資をかけ、相場を実質的な価値に近づけることで、その差益を利益にしてきたこと。

これらは、簡単なことではない。正確な情報収集と分析力、冷徹な観察力、優れた直感力が必要だ。誰もが彼の投資手法を知りたがったが、誰も真似できなかった。

彼の「職人芸」とも言える投資手法は、彼の育った環境や性格によるところが大きいのかもしれない。
彼の故郷のハンガリーは、ナチスによって占領され、ユダヤ人である彼は、身分を隠して逃げ回る生活を余儀なくされた。そして、ナチスに続くソビエト進攻による虐殺。
バレてしまえば一巻の終わりの毎日。しかし、彼は、どこかこの「サバイバル」を、冒険の主人公になったように楽しんでいた。

戦争中に養われた、人間に対するある種の絶望と、生死を賭けた状況でも、決して失われない楽観的な姿勢。
彼は、哲学者になりたかったそうだが、やはり、投資家の方が向いていたのだ。

2008年の初めに出版されたこの本で、彼は「年内に世界経済は破綻する」と予測した。
サブプライムローンに端を発した、リーマンショックが起きたのは、2008年の9月だから、彼の予測は正しかった。

しかし、今回の破綻は、突然起こったわけではない。その伏線は、2000年のハイテクバブルの崩壊、2001年の同時多発テロから始まり、今日までの間、世界の至るところでクラッシュは何度も起きていた。今回のように、大規模不況に陥らなかったのは、その都度、政府による介入で応急措置が取られてきたからである。この結果、金融界には「無茶な博打で失敗しても、最後は政府が助けてくれる」というモラルハザードが生まれた。

このモラルハザードは、サブプライムローン問題にも大きく関わっていた。
金融工学を駆使して作られたこのローンは「リスクヘッジ」商品だと言われていた。住宅ローンを証券化することで、貸付リスクを分散することができたからだ。
しかし、これは「お金を実際に貸した人」と「債権者」が離れてしまうことを意味する。その結果、何が起こったか?

お金を貸せば貸すほど手数料収入が増える上に、債権は、他の誰かが肩代わりしてくれるとなれば、返済能力が無い人にもどんどん貸しまくって、手数料を荒稼ぎする。それを、アメリカ全体がやってしまった。そして、証券化された住宅ローンが世界中にバラ撒かれることで、焦げ付いたローンは、アメリカだけの問題ではなくなってしまった。
サブプライムローンは、リスクの無い商品ではなく、他の誰かにリスクを押し付ける「なんちゃってリスクヘッジ」の商品になってしまった。

この事態を、ソロスは見抜いていた。
度重なるモラルハザードと応急措置が破綻するとき。それは、アメリカ中心の市場原理主義の破綻と、アメリカドルの優位性の喪失を意味した。
アメリカは、自分で自分の首を絞めたのである。

しかし、ソロスは、本当の危機は2年後(2010年)だと言う。おりしも、2010年は、ヨーロッパで100年に1度と言われている「カーデイナル・クライマックス」の時。イヤな予測だ。

この危機をどう乗り越えればよいのか。
ソロスは、「現実を直視する」ことに尽きるという。これからは、今までの常識もどんな予測も役に立たなくなってくるからである。

ソロスは、今、自分が理想とする「開かれた社会」を実現するため、自分の意志に賛同する団体に投資し、基金を創設し、積極的に慈善団体に寄付している。
しかし、その「開かれた社会」にも欠点があることを、彼は知っている。

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by june_h | 2009-09-10 21:00 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)