「マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル」 デイヴィッド・リッツ 著 ブルース・インターアクションズ

世界のミュージックシーンに多大な影響を及ぼしたアメリカ人アーティスト、マーヴィン・ゲイの自伝。

マイケル・ジャクソンが亡くなったとき、山下達郎さんは「マーヴィン・ゲイ同様、アメリカ芸能界の地獄で燃え尽きた」とラジオで言っていた。二人とも、たぐいまれなるアーティストで、落差のありすぎる天国と地獄を体験した点は同じだが、マーヴィン・ゲイに関して言えば、彼の内側に「地獄」はあった。

彼が生まれたときからずっと続いていた、父親による虐待と確執。
彼にとって父親は、最も愛して欲しい存在であると同時に、最も自分を傷付ける存在でもあった。
『引き裂かれたソウル』とは、よく言ったもので、父親に対して生涯抱き続けた愛情と憎悪は、彼の繊細で傷付きやすい内面を激しく分裂させ、やがて彼自身を破滅に導いていく。

彼は、天使のように美しいハイトーンボイスと、力強いシャウトを巧みに使い分け、次々と名曲を生み出していった。
サウンド・スペース・コンポーザーの井出祐昭さんは
「「良い音」というのは、身体に訴えかける「肉感的な音」か、宗教音楽のような「聖なる音」」
と言っていたが、彼はその両方を持っていた。
それに加えて、不安定で危なげのある「色気」を持っていたため、多くの人間が彼の歌を求め、ヒットチャートを駆け上がっていく。

しかし、どんなに成功しても、彼は常に不安で幸せを感じなかった。コンサートでは、セクシーなパフォーマンスでファンを魅了する一方、彼を引き裂かんばかりに熱狂する女性ファンに恐怖を抱いた。

「彼が愛する人は、同時に自分を最も傷つける存在である」という彼の思い込みは、彼を取り巻くあらゆる人間関係に投影される。妻や周囲の仲間に対して、ひどく優しくしたかと思えば、ひどく傷つけて自分を憎むように仕向ける。まるで、彼の中に天使と悪魔が住んでいるようだった。

加えて彼は、優れたアーティストではあったが、生活能力は皆無だった。
楽曲の印税や、獏大な契約金で得た巨万の富も、贅沢な暮らしと麻薬ですぐ消える。気まぐれで飽きっぽく、言動は常に衝動的で一貫性が無い。「責任を取る」とか「約束を守る」という言葉は、彼の辞書になく、すぐに現実逃避してしまう。
インタビューを読み進めていくと、彼の言っていることが、だんだん信用できなくなってくる(笑)。

破産、税金滞納、二度の離婚、海外逃亡、麻薬中毒と、彼の人生はトラブルが絶えなかった。彼だけの責任ではない部分もあるだろうが、結局は彼自身が招いたものだった。
次第に、麻薬による精神錯乱が激しくなり、再び、因縁の強い父親と口論が絶えない日々に。とうとう、父親に射殺され、45歳の誕生日の前日に生涯を閉じた。

生きにくかったと思う。
もちろん、彼自身に責任が無いわけでは絶対無い。
彼は、どうすれば良いか、頭ではわかっていたと思うが、行動が伴わなかった。

「彼は自分の死によって、三つのことに成功した。苦しみの多い人生から自分自身を解放したこと。愛する母親を憎むべき父親から引き離したこと。そして、父親を破滅させたこと」
という言葉が悲しい。

彼の劇的な人生は、名曲と共に今も、ずっと語り継がれる。
今日もテレビから「Mercy mercy me」の優しい歌声が聞こえてくる。

・・・・・それにしても、中身もヘビィだったが、重量もヘビィな本だった。肩と腕が疲れた(^^;

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by june_h | 2009-10-21 21:53 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)