「さらば脳ブーム」 川島隆太 著 新潮社

ニンテンドーDSの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」を監修した東北大学教授 川島隆太先生のエッセイ。
脳の基礎研究から大ヒットゲームソフトにつながるまでの、様々な苦労が書かれています。
「さらば脳ブーム」 川島隆太「さらば脳ブーム」 川島隆太
アメリカ留学から帰ってきた川島先生は、研究費を捻出するために、イイことを思いつきました。

・・・・・ファミコンをしているときに脳が活性化することを証明する論文を書けば、任天堂がお金を出してくれるかも!

川島先生は、早速、実験しましたが、結果は正反対。
ゲームをしているときの脳は、あまり働いておらず、単純計算をしているときの脳が、一番活性化していたのです。
「ファミコンするより公文しろ!」
というのが、研究の結論でした。

任天堂はダメでしたが、公文式が先生の研究に興味を持ち、発達障害児やアルツハイマーの患者に計算ドリルを試したところ、症状が劇的に回復したのです。
こうした研究から「学習療法」を確立。また、公文式から『脳を鍛える大人のドリル』を出版したところ大ベストセラーに。
更には、任天堂の社長直々に「ニンテンドーDS用のドリルを作って欲しい」と要請があり、「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズが発売。合計で870万本売れる大ヒットになったのです。

しかし、先生を待っていたのは、思わぬバッシングでした。
「脳トレをやってもムダ」「科学的根拠は無い」など、同業者である「脳科学者」による週刊誌の記事。
先生は、同じ科学者ならば、週刊誌で背後から糾弾するのではなく、自分の論文を「追試」して結果の有効性を論じる論文で反論すればよい、と、憤りました。
また、脳トレによる報酬は、基本的に東北大学が受け取っていて、先生個人では、ほとんど受け取っていないにもかかわらず、儲かっているだろうと、税務署の調査が入ったことも。有名になったことで、ストレスフルな生活になってしまったと、愚痴をこぼしています。

私は、思いました。
どんな世界でも、新しいことに挑戦する人は警戒され、人気のある人は嫉妬されるものなのだと。
どんなに社会に貢献していても、快く思わない人はいるのだと。特に、同業者は、敏感に反応するみたい。逆に言えば、批判されない人は「毒にも薬にもならない」と思われているだけなのかも(^^;

先生はまた、科学推進における国の姿勢にも疑問を持っていらっしゃいました。
学習療法を国の施策として財務官僚に提案したところ「誰も儲からないから施策にならない」とハッキリ断られたそうです(^^;
要は、利権を生まないと意味が無い、ということなのでしょう。
また、予算配分も、特定の研究機関に偏りがあるように見えるそうです。

それから、先生は、情報を加工するマスコミの功罪についてもおっしゃっていました。
私も情報を「簡単に」「楽しく」加工することは、必ずしも良いことばかりではないと思っています。
情報を加工する時点で、加工者の誤解や偏見が入りますし、「お金儲け」目的で故意にねじ曲げられることもあるからです。
そして、その「本来の状態からズレた情報」が、多くの人に広まれば、情報が一人歩きして、あらぬ誤解や批判を生む原因となります。

「川島先生って愚痴っぽいなあ」と苦笑しながら読んだ本ですが(笑)、科学者の世界や人間関係などなど、いろいろ考えさせられる本でした。
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by june_h | 2011-09-09 12:42 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)