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「千住家にストラディヴァリウスが来た日」 千住文子 著 新潮文庫

日本画家の千住博、作曲家の千住明、ヴァイオリニストの千住真理子。
芸術の世界で活躍する三兄妹を育てた母親、文子さんのエッセイ。
千住家に、幻のヴァイオリン「ストラディヴァリウス」がやって来るまでのことが書かれています。
「千住家にストラディヴァリウスが来た日」千住文子「千住家にストラディヴァリウスが来た日」千住文子
兄妹の中で、末っ子の真理子さんは、幼い頃から「天才ヴァイオリニスト」と呼ばれ、12歳でプロのヴァイオリニストの道を選びました。
そんな彼女を待っていたのは、大人達の嫉妬とバッシング。なんの後ろ盾もない彼女を支えて来たのは、家族と、彼女自身のたゆまぬ努力でした。

ある日、真理子さんの祖母が、
「幻のストラディヴァリウスがヨーロッパのどこかに隠れていて、真理子の元へやって来る」
という夢を見ます。

ストラディヴァリウスとは、300年以上前のイタリアの職人ストラディヴァリが製作したヴァイオリンのこと。
どのように作られたのかは、未だに不明で、わずかに残っている数百丁のヴァイオリンは、いずれも名器。億単位の価値があるものもあります。
大変な資産家や、一流のヴァイオリニストしか持つことを許されない、幻のヴァイオリンです。

ヴァイオリニストである真理子さんにとっても、高嶺の花であることには、変わりありませんでしたが、祖母の夢の通り、スイスの資産家の遺品から、ストラディヴァリウスが見つかります。そして、真理子さんも試しに弾かせてもらえることになったのです!

真理子さんは、ストラディヴァリウスの購入候補者に入っていましたが、4番目。
普通なら、回って来ない順番だったにもかかわらず、3番目までの人達に次々とトラブルが起こり、あっという間に真理子さんの手元に。
まるで、アーサー王の剣のように、ストラディヴァリウスが真理子さんを選んだかのようです。

その後も、ストラディヴァリウスを持っていく先々で、大雨だったのが急に晴れたり。ストラディヴァリウスが「嫌う」人が遠ざかったり。真理子さんも「ストラディヴァリウスに何もかも見透かされている」かのようだと言います。
妖刀「村雨」みたいですね(←村雨は、雨を降らしますすけど)。

ストラディヴァリウスが真理子さんを選んだのは、彼女の才能だけではなく、彼女の周囲も素晴らしい人だったからですね!
真理子さんがストラディヴァリウスの購入を決心した後、会計士さんや家族みんなで金策に走り、彼女の決断を全面的にバックアップ。
千住家の総力で、ストラディヴァリウスを家族の一員にできたのです。

巻末での、真理子さんとの対談で、文子さんの次の言葉が印象的でした。
孤独だからこそ、素晴らしい道だってあるんです。子供や家族がいないから孤独なわけじゃないのよ。人間だから孤独なの。私が三人の子供を育てた生き方と、真理子が子供を育てずにヴァイオリニストとして歩んだ生き方とは、外見は違うけれど、平行した生き方なの。私は楽器ではなくて、子供を育てた。あなたは子供とではなく、楽器と歩んだ。子供を育てることと楽器と歩むこと、この二つが同格に並んだとき、初めて対等な議論になるのよ

by june_h | 2012-01-22 13:55 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)