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「舟を編む」 三浦しをん 著 光文社

辞書は、言葉の海を渡る舟だ。
ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう。

出版社で辞書作りに携わる人達の話です。

舟を編む

三浦 しをん / 光文社


辞書作りは、特殊な世界。一冊出すのに、数年から数十年かかることも。
言葉と用例をコツコツ集め、用例カードを作っていきます。
数千ページに数十万語。校正するのも膨大な労力が必要。
規定のページ数に収めるのにも、言葉や用例を削ったり・・・・・。
気付けば、一生を辞書作りに捧げ、出版を待たずに亡くなってしまう執筆者も。
辞書作りは、時間とお金がかかるものなのです。

しをんさんの小説の主人公は大抵、何かに対して真っ直ぐに打ち込む男性。世間ズレしているけど誠実。この小説では、編集者の馬締(マジメ)くん。
そして、そんな男性を慕う女性は、すぐにでもベッドに誘うほど積極的。この小説では、板前の香具矢ちゃん。
きっと、こういう女性でないと、話が先に進まないからなのね(^^;

そして、主人公とは正反対の「一般人代表」キャラ。この小説では、西岡さん。どっちが良い悪いではなく、こういう人も必要です!

マニアックなしをんさん目線の小説は、私、大好き!
フィクションが苦手な私でも、思わず手が出ます。
読みやすくて面白かったですが、「数十年かけて一つのものを作り上げる」という意味では、『天地明察』の方が良かったです。

この本は、2012年 本屋大賞受賞作。
編集者の苦労が描かれているこの本が評価されたことで、出版社は、大いに溜飲を下げたことでしょう。
しかし、私が気掛かりに思ったのは、最近登場しているネット辞書の存在。
この本では、全く触れられていませんでしたが、辞書制作を更に苦しくさせていると思われます。

辞書を売った収益が、次の改訂版を作る原資になるけれど、辞書が売れなければ、その原資が作れず、改訂版を出せないかもしれません・・・・・。
一方、ネットは、重たくないし、いつでもどこでもアクセスできる。しかも、ページは無限。
どこの国も、どの言語も、同じように直面している問題だと思いますが・・・・・。

「国策」として国の支援で辞書を作っている国もありますが、日本では、国の支援はなく、各出版社が作っています。

言葉は、民族のアイデンティティ。文字は、文化。
今の日本を救うのは、損得考えずに長いスパンで打ち込む馬締君のような存在。頑張れ!

by june_h | 2012-07-29 12:00 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)