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「ドアの向こうのカルト 九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録」 佐藤典雅 著 河出書房新社

エホバの証人(ものみの塔)の元信者による、入信から脱会までの記録。
宗教団体とは何かというだけでなく、コミュニティの在り方や個人のアイデンティティについて、いろいろ考えさせられました。

ドアの向こうのカルト ---9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録

佐藤 典雅/河出書房新社

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父親が銀行員だったため、転勤で海外を転々としていた著者の家族。
ロサンゼルスに住んでいた時、聖書の勉強をしませんか?と、エホバの証人信者が家に訪ねて来ます。

元々、プロテスタント信者で、理想主義的だった母親は、海外での淋しさも手伝って、エホバの証人の教義こそ真理だわ!と入信。活動にのめりこんでいきました。
熱心な母親の布教によって、著者を含む家族や親戚達も、入信していきます。

エホバの証人は、アメリカ人のチャールズ・テイズ・ラッセルが1884に起こした宗教。
(ちなみに、信者達は「教祖がいないし偶像崇拝しないので宗教ではない」と考えています)
キリスト教の聖書を絶対とする、原理主義的な方針を取っています。

あらゆる欲望に否定的なので、エホバと聖書の名において、厳しく抑圧的にしつける母親に対して、著者は、小さい時から家出するなど反抗していました。
また、実生活より布教活動が奨励されていたため、大学進学を断念せざるを得ませんでした。

いろいろ葛藤する一方、非常に優秀だった著者は、日本人ではなかなか入ることができない、アメリカ本部の中枢「ベテル」の一員に。
信者達の尊敬を一身に集める存在となりましたが、支配的に振る舞う女性信者に楯突いたことがきっかけで、ベテルを追い出されてしまいます。

元々、教義の矛盾に疑問を持っていた著者。
二つの大きな教義の突然の変更(高等教育の容認とハルマゲドン(世界滅亡日)の延期)が、疑問に拍車をかけました。

「入信しないと幸せになれない。
信者以外はサタンの手下。
信者だけがハルマゲドンの後に楽園に入れる」
と子供の時から繰り返し教えられてきました。

しかし、入信したことで一家離散した信者を見て、入信しない方が幸せだったんじゃないかと思ったり。
信者ではなくても、立派な人がいると感じたり。
むしろ、狂信的で病的で依存的な信者達に悩まされることの方が多かったり(^^;

とうとう、彼は、

「こんな非常識な信者達と楽園に行ったって、全然嬉しくない」

と考えるに至って脱会。
家族や親戚をどんどん説得して、辞めさせていきました。

この本から私が感じたのは、「カルトなんて、エホバの証人なんてロクでもない!」
ということではなく、著者自身のアイデンティティの問題でした。

たぶん著者は、どんな宗教に入っていたって、同じように矛盾を感じ、それをそのまま放っておけなかったのではないでしょうか。

宗教に限らず、学校だって会社だって自治体だって、あらゆるコミュニティは、矛盾を孕んでいます。
だって、運営している人間自体が矛盾を抱えた生き物だから、人間に合わせると、どうしたって矛盾は出てきますからね。

彼は、頭が良い上に、ちゃんと自分の頭で考えて行動し、バランスの取れた考え方ができる人だという印象を受けました。
でも、組織は「考えないでとにかく従いなさい」という部分があります。
上役の人は「使いにくい」と思うのかも。
社長タイプかな。
実際、脱会後のビジネスで、彼は、成功しています。

今でも、仕事で愚痴を言う若者に
「一度カルトに入ったら?今の生活のありがたみが分かるよ」
と、冗談混じりに言うそうな(^^;

私が問題だと思うのは、欲望を必要以上に抑えこむこと。
エホバの証人の教えは禁欲的なので、反発して脱会すると、ホストのような極端な世界に走りやすいそうです。
また、どんなコミュニティでも、激しく批判するのは、内部事情を知っている人間ですね(^^;;;

「人生の答えを他の人に委ねた瞬間、自分の人生はなくなってしまう」

と、著者は言います。
こう考えると、カルト信者でなくても、自分の人生を生きていない人、結構いるのでは?

Commented by leon43 at 2013-12-16 20:41
なかなか素晴らしい書評ですね^^
偶然今日歩いていたらエホバの建物を見つけました。
隙があると付け込まれますから注意しないといけません。
Commented by june_h at 2013-12-17 12:39
>leon43さま
ありがとうございます。
でも、書評が良いのではなくて、著者の分析力が素晴らしいです。
宗教の手記というと、徹底的に賞賛するか、こき下ろすかのどちらかが多いのですが、
そのどちらでもなく、いろいろ考えさせられることも多く、とても良い本でした。
ちなみに、エホバの証人の勧誘を断る方法も、この本に書かれていましたよ!
by june_h | 2013-12-15 12:50 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)