『播磨屋画がたり』 中村吉右衛門 著 毎日新聞社

時代劇『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵役でお馴染みの歌舞伎役者、中村吉右衛門のエッセイ。

近況や歌舞伎の事はもちろん、祖父、初代吉右衛門の事や、小さいときの事が、直筆の水彩画と共に描かれています。
特に印象的なのは、実の母親以上に可愛がってくれた「ばあや」の存在。歌舞伎役者の裏方として忙しかった母に代わって、吉右衛門にとって大きな支えであったことが伝わってきます。
面白いのは、どのエピソードでも、奥様や娘さんのお小言で終わるオチになっていること。彼のユーモアやサービス精神、家族への愛情が伺えます。

このエッセイでもそうですが、インタビューなどで吉右衛門さんは「僕には跡継ぎがいないから」とか「僕は芸が下手だから」とかよく自分を卑下して、いじけます。ほかの人のいじける姿はイヤなものだけど、彼が言うとなんだか微笑ましくって、彼の芸風の一部にさえ思えてくるから不思議です。

優しくて温かい筆遣いの水彩画とは対照的に、舞台の上の吉右衛門さんは、じっくり描きこまれた油絵のよう。
ステージライトの中で見せる笑いや涙は、薄っぺらなものではなく、複雑な感情が幾重にも塗り重ねられたもの。その役が背負っている運命や人柄が浮かび上がって影となり、フィクションの人物なのに、実際に生きている人のような錯覚を覚えてしまうのです。
こう感じるのも、吉右衛門さんの芸に対するたゆまぬ努力と経験と、役に対する深い理解があるからだと思います。

吉右衛門さんを見るまでは、歌舞伎は型で見せるもので、演じている役者さんの内面はニュートラルだと思っていました。でも吉右衛門さんは実際に傷ついている。そんなふうに思って深く感動してしまいました。

吉右衛門の俊寛は、特に必見です!私は、吉右衛門の俊寛が見せるラストシーンの表情を見て、「執着が人を孤独にするのだ」と悟り、4階席で号泣してしまいました。その日の観客の中で、自分が一番感動している自信がありました(笑)。

今週末のドラマ、鬼平犯科帳スペシャルが楽しみです!

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Commented by rudolf2006 at 2007-04-04 05:25 x
初めまして 
ブログ村の記事から、辿り着きました。

私も大好きな、吉右衛門さんのことが書いてあり、嬉しくなって、コメントをさせていただきました。

私も、歌舞伎を昔から観ているのですが、今の吉右衛門さん、立ち役の第一人者になっていますよね。どの役も、高麗屋型ではなく、初代吉右衛門型で演じようとされているようですね~。
「俊寛」も、初代の型で演じておられるようです。
どの役も工夫されていて、それに、それが見えるのではなく、今の演劇として演じているところが、良いですよね~。

本当に、役者振りが一段と上がったように思います。
普通そういう立場になると、他の方の芝居に付き合うということをしなくなる役者が多いですが、吉右衛門さんは、一門はもちろんのこと、これまで世話になった役者の芝居に嫌がらずに出ておられますよね、本当に頭が下がります。

頑張れ、播磨屋~~~ぁ
ミ(`w´彡)

Commented by june_h at 2007-04-06 21:16
rudolf2006さん、コメントありがとうございました。
昔から舞台の吉右衛門さんをご存知なんですね。羨ましい!
私は今年に入ってからなんです。
本当に、吉右衛門さんという役者さんに出会えて、うれしいです。
これから、がんばって追いかけていこうと思っています。

がんばれ!播磨屋!
Commented by rudolf2006 at 2007-04-07 06:15 x
june_hさま お早うございます。

私のブログにご訪問、それに、コメント、ありがとうございます。
m(_ _)m

年がばれてしまいますが、吉右衛門さんは、若い頃から見てきています。もちろん吉右衛門さんの方が年上ですが、それほどは変わりません、爆~ といっても吉右衛門さんの方が大分上ですが、爆~。

お江戸の役者の中では、ピカイチではないでしょうか、吉右衛門さん
本当に良い役者になったと思います。役が付かなくて、可哀想な時期もあったんですよ。どうしても高麗屋に光が当たって~。

でも、吉右衛門さんはその間に精進されていたんだと思います。私も4月公演、5月公演、行きたいのですが、何せ、関西在住で、なかなか、お江戸までは行けません;;; 日曜に観に行かれるんですね、羨ましいです。
私は、松竹座の花形歌舞伎に参ります。

レポを心待ちにしております。
ミ(`w´彡) 頑張れ~~ 播磨屋ぁぁぁぁああああ~~
Commented by june_h at 2007-04-07 13:42
rudolf2006さま、こんにちは。
関西在住なら、上方歌舞伎にもお詳しいのですね!
オススメの役者さんがいたらぜひ教えてください。

花形歌舞伎も、『曽根崎心中』とか『夏祭浪花鑑』とか、
私が見たいと思っていた演目があるので羨ましいです!
レポ、楽しみにしております。

吉右衛門さん、松竹を離れていらした時期があったそうですね。
お若い時からいろいろご苦労があったかと思います。お兄様の高麗屋は、若い頃から歌舞伎以外でもご活躍されていたみたいですし、ずっと比べられてきたのでしょうね。きっと、ご苦労された経験が、深みのある演技に生かされているのですね。

また是非いろいろ教えてくださいね。
by june_h | 2007-04-03 20:28 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(4)