2007年 05月 12日
『だれが「本」を殺すのか』 佐野眞一 著 プレジデント社
私が小学生だった頃。薬師丸ひろ子が主演した角川映画『里見八犬伝』がヒットした。映画を観た母は、ノベライズ本も読みたくなって、近所の本屋に買いに行った。しかし当然のごとく売り切れ。注文すると一ヶ月以上掛かると言われ、結局手元に届けられたのは半年以上後のことだった。母も私も注文したことを、すっかり忘れていた。
こんなことがあってから二十年以上経つが、この本を読んで驚いたのは、現在(2000年当時)もこうした状況はほとんど変わっていなかったということだ。もっと驚いたのは、ネット書店やコンビニの参入など、本の流通に改善をもたらしたのは、出版業界出身者ではなく、異業種からの参入組だったことだ。
出版社の採用試験は倍率が高く、試験自体も難しいためかなり「優秀な」人材が入っているはずなのだが、一体なぜ?
日本全国でチェーン展開する古本屋、ブックオフの創業者も、以前は中古ピアノの販売をしていたという、異業種参入組。本の再販制度(再販売価格維持契約)を逆手に取って急成長し、新刊書店の万引きなどを助長して、既存の出版界の人間からは、蛇蝎のごとく嫌われているが、新刊書店が、ブックオフで安く仕入れた本を出版社に「返品」したり、既存の古本屋がブックオフで安く「仕入れた」本を高く売ったり、モラルの崩壊とも言える現場が報告されている。しかしある意味、こうした問題が起こるのは、出版の流通制度の閉塞状況を物語っていると言えるのかもしれない。
何かの本で、今、日本で最も遅れているのは、教育や出版など「日本語」だけで閉じている世界だという。本は、自動車や電化製品のように、そのまま世界に売れるわけではないから、パイが限られている。「本が売れないのは、若者の活字離れのせいだ」なんていう業者の言い訳も、この本を読むと、無責任でヒトゴトに聞こえる。
一人一人読者を大事にする。そんな当たり前のことが難しい、出版界の今がわかる本。
佐野眞一のルポは面白い。文章から彼の情熱がほとばしってくるから面白い。でも、ラストに近づくにつれ、さらに温度が上がって、私のアタマでは、彼が何を言いたいのか、理解できなくなってしまう(笑)。
にほんブログ村