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【映画:ネタバレ御免】シッコ

アメリカで怪我や病気になると、財産を失うか、命を失うか、どちらかを選択しなければならない。
日本語だとヘンなタイトルだが、原題は『Sicko』。「病人」を表すスラングだ。

アメリカのドラマでよく見られる光景がある。救急病院に患者が運ばれると、医者は患者に聞く。「あなたは医療保険に入っているか」と。私はそれを見るたび、入ってないと答えたらどうするんだろう?と思っていたが、今日の映画でよくわかった。

・・・・・当然、治療を拒否されるし、医療費を払えなくなった病人はパジャマのまま、ホームレス支援センターに捨てられるのだ・・・・・。

これは貧困層に限った話ではない。中流以上の家庭でも、医療費が払えなくて自己破産する家庭が後を絶たない。
高い医療費を嫌って、カナダ人と偽装結婚し、カナダで治療している人までいる。

アメリカには、公的な健康保険制度がない。そのため民間の保険会社に頼らなければならないが、なにかと理由をつけて、リスクの高い人の加入を断ったり、病気になっても保険金を払ってくれない。その方が会社の利益になるからだ。

支払いを拒否する件数が高い審査医師ほど、高いボーナスをもらう・・・・・患者を救わない医師ほど儲けている、イビツなシステム。

ヒラリー・クリントンが一時期、医療制度改革に乗り出したが、「公的保険は社会主義的」とする保険会社のロビー活動で失敗。ロビー活動に費やされた額は160億円にものぼる。それだけのお金があれば、どれだけの人を救えただろう・・・・・。

高い医療費を嫌って、事故で裂けたヒザを自分で縫う男性。
工具で中指と薬指を切断したが、お金がかかるので、結婚指輪をはめる薬指だけ結合手術を受け、中指は諦めた男性。
ショッキングな光景だ。

そして話は911へ。
グラウンド・ゼロで救助活動を行った女性が、呼吸器障害になったが、医療手当を受けられず、ずっと後遺症に悩まされている。
ムーア監督は、911の容疑者たちが「人権保護」の観点から、刑務所で手厚い医療と看護を受けていることを知る。
そこで監督は、911での後遺症に苦しむ人たちを引き連れ、刑務所に向かって叫ぶ。
「911で苦しむ患者に、アルカイダと同様の医療を受けさせてください!」
もちろん、刑務所からの返事はない。

彼らは今度はキューバに渡る。
キューバ危機以来「仮想敵国」「悪魔の国」として恐れていた国で、アメリカより高度な医療が、無料で提供されている事実を知る。「アメリカで160ドルもする薬が、たった5セントなんて!」キューバで治療を受けたときの真底安堵した彼らの表情が忘れられない。

先進国の中では、乳児死亡率も高く、平均寿命も短いアメリカ。行き過ぎた市場原理と、相互扶助の考えを社会主義に結びつけて嫌悪してしまう思考が、国民の生活を不自由なものにしている。

貧困で苦しむ国に住むのはイヤだけど、人を助けるって、ごく当たり前の精神を持つことが難しくなるような、人を不幸にしなければ儲けられないような、そんなシステムの国に住むのは、もっとイヤ・・・・・。

ほかにも、カナダ、イギリス、フランスの医療制度について紹介されている。これらの国も、もちろん日本も、問題がないわけではないが、アメリカよりも全然マシに見える。
いつ破綻してもおかしくない、日本の健康保険。破綻すれば、アメリカより悲惨な現実が待っているかもしれない。

そんなわけで、必ず選挙に行かなくちゃ・・・・・と思ったら、先日の知事選挙は、行くのをすっかり忘れてしまった!・・・・・これで、今後数年間は県政に文句が言えない私(-_-;;;


<関連リンク>
映画「シッコ」公式サイト
「シッコ」(映画詳細、映画館情報) >>
Commented by rudolf2006 at 2007-09-02 18:40 x
june_hさま こんばんは

ムーア監督の『シッコ』 評判が良いみたいですね~
健康保険制度のない国、自助努力、成果主義の国なんでしょうね
日本が、アメリカの真似をどんどんしていますが、止めて欲しいですね~。日本の健康保険制度、破綻しかかっていると、政府が宣伝をしきりにしていますが、実際にはそうではない、という意見もありますね~。
まともな制度はできるだけ守っていきたいものですよね。人間をまともに扱う政府であって欲しいものですよね~
ミ(`w´彡)
Commented by june_h at 2007-09-04 20:27
rudolf2006さま、こんばんわ!
ドキュメンタリー映画は、ただのクソマジメなシュプレヒコールで終わってしまって、あぁうぜぇ、と思うことが多いですが、『シッコ』は、ちゃんとエンターテインメントとして成立していて、随所で笑える場面が出てくるので、監督の力量をすごく感じます。
エンドロールも、ムーア監督らしいシニカルさに満ちていて、爆笑してしまいました!
場内が明るくなるまでは、絶対席を立ってはいけない映画です!!
Commented by monsieur-meuniere at 2007-09-04 22:55
こんばんは。
この映画、気になってました。この前、NHKの番組で、マイケルムーアが日本のファン向けにコメントしてて「日本の医療制度は素晴らしい。その意味をこの映画を見て考えて欲しい」と言ってましたが、確かに、日本の政府も、将来的には医療保険制度を民営化させていきそうですよね。今回、病気をしてぶっ倒れたおかげで(?)保険のありがたみが良く分かりました。映画、近いうちに見てみたいと思います!
それから、このエントリではないんですが、古典落語の現代語への翻訳についての考察、とても興味深かったです。最近、英語の勉強に凝っているんですが、違う言語を変換する、というのは一見機械的に見えて、実はとても知的というか美的というか、複雑な知的営為なんだなぁと痛感していました。言葉って本当に深いですね。言葉を大事にしなくては、と、身の回りのこともちゃんと出来てないのに、そんなことを思う今日この頃でした。またお邪魔いたします。
Commented by june_h at 2007-09-05 20:39
こんばんわ!言葉って、本当に難しくて面白いですよね。私も以前働いていた会社で、技術文書を扱っていたので、一つの概念を言葉にする作業がどんなに難しいかを痛感していました。
翻訳に関して、最近私が面白いと思ったのは、NHKで放送された『ETV特集 星の王子さまと私』(http://www.nhk.or.jp/etv21c/update/2007/0217.html)。一つの言葉を巡って、人によって解釈や翻訳が異なるということを深く紹介していて、面白かったです!星の王子さまって、カンタンな言葉で綴られているけれど、人の奥深い部分をがっちり捉えて放さない、フシギな本ですよね。私が初めて読んだのは、高校生のときだったけど、今読んだら、きっとまた違った部分で感動するんだろうな、と思います。でも、この番組を見たのは、吉右衛門さんが出てたからなんですけどねー(笑)。
by june_h | 2007-09-02 08:51 | 映画 感想 | Trackback | Comments(4)