『仲蔵狂乱』 松井今朝子 著 講談社

落語『中村仲蔵』で語り継がれている伝説の歌舞伎役者、中村仲蔵の一生を描いた小説。著者は先日『吉原手引草』で直木賞を受賞した松井今朝子さんです。

icon
icon
今も昔も名家出身でなければ、良い役になかなかつけない歌舞伎界にあって、中村仲蔵は、芝居町に売られた孤児で、子役を経て、最下層の役者から名題(トップスター)にまで昇り詰めた稀有の人。
役者仲間の壮絶なイジメと嫉妬にグッと耐えつつ、自分より実力もキャリアも劣る名家出身の役者がどんどん出世するのを悔しがりつつも、誠実に役を務め、観客の心と人気を着実に掴んでいきます。

著者の松井今朝子さんは、歌舞伎の狂言作家だったということもあり、マニアックな歌舞伎用語とか、意味のわからない当時の言葉とかバリバリ出てくるんだろうなぁと思っていたら、読んでて全然、わかりやすかった!余計な比喩や修飾のない文章で、すっきり淡々と語られています。泣かせるセリフとか、オーバーな表現はないのに、一文から一文、行間から行間へと読み進めるうちに、仲蔵の苦悩が伝わってきて、不思議と涙が込み上げてくる。そんな文章です。

なので、仲蔵も、全くの善人とか、スーパーマンとして描かれているわけではなく、怒りをあらわにしたり、気弱になったり、失敗したり、とても人間的。
特に、一人息子を亡くした後、精神的に不安定になったときの描写はリアルでした。

人間と金が集まる所はドロドロしてしまうのが世の常ですが、二百数十年前の芝居の世界も例外ではありません。
己の権力のために、息子を名家の養子にしようと画策して自滅する人あり、俳優同士を仲違いさせるために、あらぬ噂を立てる人あり。
そんな周囲の思惑に仲蔵も振り回されますが、トップスターとして役者人生を全うし、後世にも語り継がれているのは、中村屋が経営危機に陥った際に殆ど無休で出演して援助するなど、お金や自分の欲のためではなく、人のために動いたからではないでしょうか。

落語にもなっている『忠臣蔵 五段目』の斧定九郎のエピソードは、わりにあっさり書かれていました。っていうか、人情噺として脚色しているのは落語の方かもね。

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
[PR]
トラックバックURL : http://juneh.exblog.jp/tb/6891377
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by june_h | 2008-01-05 15:16 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)