『天才の栄光と挫折 数学者列伝』 藤原正彦 著 新潮社

大丈夫。数学が全然できない私でもすっごく楽しめた本です(笑)。数式の解説は一切出てきません。歴史と数式に名を残す9人の偉大な数学者達の、苦悩と栄光に満ちた生涯が描かれた本です。

天才の栄光と挫折―数学者列伝 (文春文庫)

藤原 正彦 / 文藝春秋


輝かしい数式の裏には、暗くて深い苦労と挫折あり。

誰でも知ってるアイザック・ニュートン。彼は生まれる前に父親を亡くし、幼いときに母親も教会の司祭と再婚して離れてしまった。思春期には「義父と母親を殺してやりたい」と思ったことがあるとか。彼の教会嫌いと合理的精神は、この幼少期のトラウマのせいではなかったかと著者は推理する。

暦と数学における緻密な研究で、西洋の数学者よりも早く、いくつかの公式を発見していた和算学者関孝和。しかし彼は生前、家族運に恵まれず、出世もできず、研究も認められず、死後になってようやく偉大さを知られるようになった。

「数式は神様に祈ると教えてくれる」と、打出の小槌のように次々と公式を生み出したインド人数学者シュリニバーサ・ラマヌジャン。しかし、慣れないイギリスでの生活と、妻と母親の嫁姑問題で疲弊し、32歳の若さで亡くなってしまう。


天才達は、天才ゆえに政治に利用され、翻弄される。真っ直ぐでピュアな彼らは、無防備に傷つく。

天賦の才能の跡を60ページの全集に残したエブァリスト・ガロワ。フランス革命やナポレオン登場後の政情不安の最中、父親を亡くし、ショックで大学受験に失敗。入学後も論文を教授に握り潰され、怒りを政治活動にぶつける。過激なゲリラ活動を繰り返し、二十歳で夭折。

第二次世界大戦中、ドイツとの暗号合戦の勝利に大きく貢献したイギリス人数学者アラン・チューリング。国家機密に深く関わり過ぎたことで、戦後も政府から監視され続け、同性愛の罪(!)で逮捕された後、謎の死を遂げる。

ドイツ人数学者ヘルマン・ワイル。彼は妻がユダヤ人だったため、ナチスに追われ、アメリカに亡命。しかし、所長職にあったゲッティンゲンの数学研究所を捨て、ドイツの偉大な数学界に自分の手で幕を降ろしたという罪悪感は、生涯消えることはなかった。


そして、私が特に興味を持ったのは、彼らの愛と孤独。

ウィリアム・ハミルトンは、若い時に資産家の娘と恋仲になったが、貧乏な学者の卵と結婚させるわけにいかないと、娘の父親に引き裂かれてしまう。二人は別々の人と結婚して30年間、お互いに忘れられず、彼女の今際のきわ、横たわる彼女と初めてのキスをする。
韓流ドラマ顔負けの純愛に、通勤電車で目頭を押さえる私。でも、結婚した奥さんに、延々と何十年も、彼女のことをグチグチ言うのはいかがなものかと(-_-#)私が奥さんならソッコー別れます!

ロシアの女性数学者ソーニャ・コワレフスカヤ。跡取りの男子を望んでいた両親には愛されず、美しくて社交的で何でもできる姉と比べられてばかり。数学だけが彼女の拠り所だった。
文豪のドストエフスキーに恋心を抱いたが、大失恋。彼は姉を愛していたのだ。それからの彼女もなんとなく孤独。海外に留学するために偽装結婚。生まれた娘は友達に預け、数学の研究と社交界に明け暮れる。多くの男性と浮き名を流したが、最後まで満たされることはなかった。ノーベル賞に数学賞がないのは、ノーベルが彼女に振られたせいだ、なんてウワサもある。


そして、絶対証明不可能と言われた、フェルマーの定理を証明したアンドリュー・ワイルズ。フェルマーが謎のメモを残してから、実に350年後!の1994年。200ページにおよぶ論文を6人のレフェリーが審査してようやく認められた。この奇跡には、伊澤理論や谷山・志村予想など、日本人の学者の理論も多く関わっていた。


全員に共通するのは、数学に対する異常なまでのモチベーション。
一握りの能力を持つ者だけが感じられる、数式に秘められた、深遠な哲学、神の奏でる音楽、完璧な美。そして、それを証明できたときの圧倒的な快楽を味わったとき、金のためでも名誉のためでもなく、夜も昼もなく、取り憑かれたように、ただただ新しい数式を求める。
数式が、そんな彼らの「夢の跡」だと思うと、久し振りに数学の本を読みたくな・・・・りはしませんでした(笑)。

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by june_h | 2008-04-02 21:36 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)