『「みんなの意見」は案外正しい』ジェームズ・スロウィッキー 著 角川書店

1884年のロンドン。とある博覧会で、牛の重さ当てコンテストが行われたときのこと。
800人が参加して、投票した回答の中にはもちろん、全く的外れな数字もありました。しかし!参加者には、牧畜や家畜の専門家がいなかったにもかかわらず、全員の平均値と、実際の牛の重さの誤差は、たった1ポンド。最も正解に近かった個人よりも、正確な数値を出したのです。
このように、一人一人はバラバラに見えても、集団で考えると、案外、最善の答えを出せるってことが、よくあるらしい。この「集合知」をうまく利用しているのがGoogle。リンクを「投票」と考えて、被リンク数が多いサイトほど重要とみなすことで、検索の精度を上げています。

「みんなの意見」は案外正しい

ジェームズ・スロウィッキー / 角川書店


でもやっぱり、多数の「平均値」よりも、一人の「優秀な人間」の意見の方が役に立つのでは?と思いがちですが、実験すると、専門家ほど、自分の判断を過信する割合が高くなるそうです。厄介なのは、自分の専門分野以外でも、正確に答えられると思いこんでいる専門家がとても多いとか。

ただし、「集合知」がうまく引き出せるのは、多様な意見を持った人たちが、自由に判断できる環境にある場合だけ。
みんなの意見が似通っていたり、意志決定をする上で強力な情報や意見を提示されたりすると、たちまち皆の意見が偏る・・・・・「集団極性化」と呼ばれる現象が起きます。

自分はシロだと思っていても、周りが皆、クロだと言うと、クロが正しいと思えてきたり。
「集団思考で重要な点は、異なる意見を封じ込めるのではなく、何らかの形で異なる意見が合理的に考えてありえないと思わせるところにある。」

特に、日本人なんて、一人だけ青信号を渡って生き残るより、赤信号を皆で渡って轢かれたほうがいいと思っている人が多そうですからね(^^;
よく「エリートだけの社会を作ればユートピアができる」なんて言う頭でっかちな人がいますが、この理論に照らし合わせると、そんな社会、みんな同じ意見だから崩壊するリスクが高くなるだけってことになります。

こんなふうに、集団の意志決定までのプロセスを、心理学の実験をまじえながら説明しつつ、様々な社会現象(バブルの発生と崩壊、株価の上昇と下降、選挙の投票など)を紐解いていきます。

でも、こうやってどんなに分析しても、失敗や崩壊のリスクが無い集団や社会は存在しないわけで。
「成功が絶対に保証されている意思決定システムなどない」と著者は言い切っていますが、最後はアメリカ人らしく、民主主義が他の政治体制に比べて失敗するリスクが少ないということを、一生懸命説明して、この本は終わっています。

とにかくいろいろな例が出てくるんですが、私が気に入ったのは次の話。
(ボートレースの)漕ぎ手にボート上で訪れる完璧な瞬間について問うと、彼らの多くはレースに勝利する瞬間よりもボートの感覚がぴったり合う瞬間を挙げた。八本のオール全部が水中でほぼ完璧にシンクロしたときの感覚だ。漕ぎ手はこの瞬間を「スウィング」と呼ぶ

どんなに素晴らしい仲間と、楽しい時間を過ごすことができても、時間が止まらない限り、それはいつか終わってしまう。それは悲しいことかもしれないけれど、でも、たった一度でも「スウィング」する瞬間を味わえたら、それはとても幸せなことではないでしょうか。

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by june_h | 2008-09-19 20:47 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)