『人間はウソをつく動物である 保険調査員の事件簿』 伊野上裕伸 著 中央公論新社

金と真実のせめぎ合い。複雑に利害が絡む最前線。
見えてくるのは、白黒シャープな世界ではなく、妥協と交渉が幾重にも覆うグレーの世界。

興信所の調査員、バッタ屋、保険調査員など「人を調べる仕事」を30年続けてきた方の著書です。

人間はウソをつく動物である―保険調査員の事件簿 (中公新書ラクレ)

伊野上 裕伸 / 中央公論新社


保険があるおかげで、大切な財産が守られる一方、これを逆手に取って、保険金を詐取する人達も多くいます。
保険調査員は、保険会社から依頼を受け、保険金請求の申請が妥当かどうか調査するのが仕事です。
ただ、保険調査員は、警察官とは違って「職権」という特権がないため、強引な調査はできません。また、罰することが目的ではないので、「8割方で調査を止め、当事者を追い詰めない」んだそうです。
周囲の人の証言を巧みに引き出し、細かい状況証拠を積み上げることで、真実を明らかにしていきます。

自分が自殺に追い込んだというのに「主人は自殺じゃない!事故だ!」と言い張る妻。
わざと古いアパートを燃やし、火災保険金で新しいアパートを建て、家賃を釣り上げた大家。
大金が絡むと、人は豹変し、つける所までウソをつきます。

しかし、本当に大変なのは、真実を暴くことではなく、それに絡む人達の間で、どう「落とし所」を見つけるかということ。

明らかに「詐取」だとわかっていても、会社側が保険金を支払うケースはあるのです。例えば、申請者が多くの保険料を払っていて、解約されてしまうと、かえって保険会社の損になる場合です。それから、「真実」によって、会社側の人間やシステムの落ち度が発覚してしまう場合も。
なので、保険会社の調査部と営業部は、対立が絶えません。真実がわかると、会社の売り上げに響くこともあるのです。
保険会社のやっていることは「正義の味方」ではなく「商売」。最後は「損得」で動きます。

保険調査員にとって、最も厄介なのは、医者と弁護士。
ウソだ!と真正面から追及しても、専門知識では勝てないし、イザとなれば法律で守られているので、機嫌を損ねては、交渉がうまくいかなくなってしまいます。
「医者と弁護士とはなるべくうまくつきあおう」・・・・・なんにせよ、力のある人とは、真っ向勝負はせずに、対人間として、あくまで腰を低く、あくまで丁寧に、話しあうのが近道なんだそうです。

最後は、なんだか、保険調査員の話というより、処世術の本を読んでいるような感じに。
「人間の社会に満ちあふれた矛盾をすべて取り除くのがいいことか悪いことか、わたしにはいまだに何とも申し上げられません」

2時間ドラマのように、崖に追い詰めてメデタシメデタシ、とはいかないのが、現実の世界なんですね~。

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Commented by つんこ at 2009-07-09 22:01 x
ホッホ~。
これは面白い!
保険調査員とはそういうものなのですね~。

しかし・・・

明らかに「詐取」だとわかっていても、会社側が保険金を支払うケースはあるのです。例えば、申請者が多くの保険料を払っていて、解約されてしまうと、かえって保険会社の損になる場合です。それから、「真実」によって、会社側の人間やシステムの落ち度が発覚してしまう場合も。

こんなんあるんだ・・・

皆、生きてく為に確かにお金は必要ではあるが・・・


Commented by june_h at 2009-07-11 21:35
つんこさん、こんばんわ!
アメリカの保険会社なんて、もっと露骨で、保険金の支払いをケチった社員ほど、ボーナスが多いんですよ(- -;
アメリカは、国民健康保険なんて無くて、民間の医療保険しかないから、大病して、保険が下りなかったら、簡単に財産を失ってしまいます・・・・・。
会社がお金を稼ぐ組織である以上、善悪より損得を優先することは、ある程度あるでしょう。でも最近は、企業倫理が問われることが多くなっているんで、あまりにも損得ばかり優先すると、リスクが高くなることもあるでしょう。
by june_h | 2009-07-08 21:14 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)