カテゴリ:本 読書 書評( 563 )

版元(出版社)、印刷会社、取次、書店、図書館、など、一冊の本が読者に届くまでに関わる様々なポイントの問題点を照らすことで、日本の出版の現状(2000年当時)を浮かび上がらせたルポ。

だれが「本」を殺すのか

佐野 眞一 / プレジデント社


私が小学生だった頃。薬師丸ひろ子が主演した角川映画『里見八犬伝』がヒットした。映画を観た母は、ノベライズ本も読みたくなって、近所の本屋に買いに行った。しかし当然のごとく売り切れ。注文すると一ヶ月以上掛かると言われ、結局手元に届けられたのは半年以上後のことだった。母も私も注文したことを、すっかり忘れていた。

こんなことがあってから二十年以上経つが、この本を読んで驚いたのは、現在(2000年当時)もこうした状況はほとんど変わっていなかったということだ。もっと驚いたのは、ネット書店やコンビニの参入など、本の流通に改善をもたらしたのは、出版業界出身者ではなく、異業種からの参入組だったことだ。
出版社の採用試験は倍率が高く、試験自体も難しいためかなり「優秀な」人材が入っているはずなのだが、一体なぜ?

日本全国でチェーン展開する古本屋、ブックオフの創業者も、以前は中古ピアノの販売をしていたという、異業種参入組。本の再販制度(再販売価格維持契約)を逆手に取って急成長し、新刊書店の万引きなどを助長して、既存の出版界の人間からは、蛇蝎のごとく嫌われているが、新刊書店が、ブックオフで安く仕入れた本を出版社に「返品」したり、既存の古本屋がブックオフで安く「仕入れた」本を高く売ったり、モラルの崩壊とも言える現場が報告されている。しかしある意味、こうした問題が起こるのは、出版の流通制度の閉塞状況を物語っていると言えるのかもしれない。

何かの本で、今、日本で最も遅れているのは、教育や出版など「日本語」だけで閉じている世界だという。本は、自動車や電化製品のように、そのまま世界に売れるわけではないから、パイが限られている。「本が売れないのは、若者の活字離れのせいだ」なんていう業者の言い訳も、この本を読むと、無責任でヒトゴトに聞こえる。

一人一人読者を大事にする。そんな当たり前のことが難しい、出版界の今がわかる本。

佐野眞一のルポは面白い。文章から彼の情熱がほとばしってくるから面白い。でも、ラストに近づくにつれ、さらに温度が上がって、私のアタマでは、彼が何を言いたいのか、理解できなくなってしまう(笑)。

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by june_h | 2007-05-12 11:04 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

篠山紀信による、歌舞伎座と坂東玉三郎の写真集。

玉三郎さんの解説と共に、篠山紀信の感受性で切り取られた歌舞伎座の裏表を、大判の写真で堪能できます。

舞台の写真だけでなく、客席、屋根の上、楽屋裏などなど。歌舞伎座は多くの人たちに支えられていることが本当によくわかります。
舞台って意外に奥行きがあるんだなぁとか、役者さんたちが濡れないように歌右衛門さんが屋根を作ったというトンボの稽古場はココなのかぁとか、なんか古そうなお風呂だなぁとか、衣裳部屋ってどんな匂いだろうとか、役者や裏方さんたちの息遣いや生活観が伝わってきます。

一番興味深かったのは、歌舞伎座の玉三郎の楽屋。玉三郎さん愛用の調度品が並んでいるのですが、一々趣味が良いものばかり。古い螺鈿の化粧台、ペルシャ織の絨毯、衝立、そして活花。その中で静かに座る玉三郎とお弟子さん。すべてが玉三郎の美意識によって調和し、楽屋が一幅の絵のような佇まいなのです。まさに「美意識のカタマリ」。

私が始めて玉三郎を観たのは、数年前の舞踊公演でした。
会社の先輩に連れられて、開演間際に駆け込んだら、最前列ド真ん中の席!玉三郎の踊りをカブリツキで観ることのできた贅沢な時間でした。

観終わった後、わたしゃ腰痛になりましたね(笑)。だって、玉三郎さん、数十分間ずっと、膝を落として中腰で踊り続けるんですよ!しかもそれを全く感じさせない優雅な動き。過酷なまでの筋力を使っていることを、私は自分の頭じゃなくて、腰で感じてしまったんですね。

最近、歌舞伎の本で、立役よりも女形のほうが、筋力を使っていることを知りました。女形は内へ内へ「体を殺して」踊る、と表現されていました。そんなわけで、ストレスが溜まるのか、女形は酒飲みが多いそうです(笑)。
玉三郎さんはどうなのかしら・・・・と、この写真集を見ながらふと思いました。

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by june_h | 2007-04-29 08:24 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)

先代、十一代目市川団十郎、その息子で現在の十二代目市川団十郎、さらに息子の市川海老蔵、三代にわたるエピソードが綴られたエッセイ。

海老蔵そして團十郎 (文春文庫)

関 容子 / 文藝春秋


舞台では荒事の勇壮な演技を披露しながらも、私生活では非常に繊細だった十一代目団十郎。
歌舞伎界きっての名家に生まれながらも、若くして父親と死別したことで後ろ盾を失い、大変な苦労をすることになった十二代目団十郎。
「完璧な隔世遺伝」と言われるほど、祖父である十一代目団十郎にそっくりで、大河ドラマ「武蔵」で一躍有名になった市川海老蔵。
面々と成田屋の血と芸は受け継がれていきます。

残念なのは、本の中で名前が統一されていないので、誰のエピソードなのかわからなくなってしまうところ。
十二代目団十郎のことを「新之助さん」と言ったり「海老さま」と言ったり「団十郎」と言ったりして定まらず。はたまた「団十郎」と言ったとき、何代目の団十郎を指すのかわからなかったり。
これで時系列に並んでいるならまだわかるけれど、そういうわけでもない。初心者の私は読みながらかなり混乱しました。
歌舞伎役者の名前はコロコロ変わるものだとはわかっているけど、もうちょっと親切に書いていただけたらなぁ・・・・・。

エピソードの一つ一つは興味深いけれど、古くからずっと成田屋を応援している方々が楽しむ本、という印象。

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by june_h | 2007-04-27 22:25 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)

集英社インターナショナルから出版されている「痛快!~学」シリーズの歌舞伎編。
執筆者は、歌舞伎のイヤホンガイドでお馴染みの小山観翁さん。私は彼のイヤホンガイドが一番面白くてスキです。

冒頭部分は、彼の家の話だったり、イヤホンガイドの自慢話だったりして「アタシは歌舞伎について知りたいの。あんたの話を聞きたいんじゃないの(-_-#)」と、怒りながら読んでいたのですが、いろんな歌舞伎入門の本の中で、この本の内容が一番印象に残っているんですねえ。それは何故かというと、小山さんが面白いと思っていることだけを載せているからかな?

ほかの入門書は、歌舞伎をなるべく客観的に、分かりやすく解説しようとしています。でも、歌舞伎は客観的に分析されても面白かぁない。あらすじや人物相関を忠実に再現されても、複雑に感じるだけだし、そもそも登場人物の名前が難しいしから、やっぱ歌舞伎は敷居が高い!って投げ出しちゃう。それより「この芝居で十五代目市村羽左衛門は西洋人とのハーフだったから、高い鼻を見せつけるために横顔で見得を切った」みたいな話のほうが面白い。

本で読むより、歌舞伎通の人と一緒にお芝居見ながら解説してもらうのが、一番良いんですけどね。

小山さんの話は歌舞伎だけにとどまらず、絵島生島事件の真相や、浮世絵の東洲斎写楽の正体など、多岐に渡ります。
特に興味深かったのは、江戸時代の芝居小屋のお得意様だった大商人のお嬢様達の話。
芝居見物が決まったお嬢様は、その日に着ていく着物をキャアキャア言いながら何枚も新調し、当日、お共の人を連れて屋形船に揺られて芝居小屋へ(屋形船の乗り降りの方法まで書いてある)。実際のお芝居が始まると、幕間(休憩時間)ごとに、着物を着替えたそうな。
今も歌舞伎座に行くと、晴れ着の人をよく見かけますが、江戸時代のお嬢様の気合いの入れ方はスゴいです(^_^;)

ああ、私も江戸時代のお嬢様になって、屋形船で芝居見物に行ってみたい(*^_^*)

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by june_h | 2007-04-26 20:55 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)

鴻上尚史が主宰している舞台を観に行くと、ほかの演劇のビラと一緒に、必ずあるものが配られます。
鴻上尚史の思いが綴られた、大学ノートのコピー。それが「ごあいさつ」です。この本には、1981年の第三舞台旗揚げ公演から、2004年の『ハルシオン・デイズ』までに配られた「ごあいさつ」が収録されています。

鴻上尚史のごあいさつ―1981‐2004

鴻上 尚史 / 角川書店


私が初めて「ごあいさつ」を劇場で受け取ったのは、この本の最後にある『ハルシオン・デイズ』から。以来欠かさず、鴻上さんのお芝居と一緒に、この「ごあいさつ」を楽しみにしています。
気づけば、本編よりも「ごあいさつ」を楽しみにしている自分がいます(笑)。なぜかはわかりませんが、この「ごあいさつ」を読んで、「鴻上さんと結婚したい!」などと思ってしまいました(^^;;;

「エッセイでは、作者の恥ずかしいことは意識的に隠されてしまう。でも、芝居や小説は、作者の無意識的な部分が出てくる。だから面白いんだ」
とは、私の知り合いの言葉ですが、鴻上さんに限って言えば、エッセイのほうが芝居よりも自分が出てます(笑)。こんなことまで書いちゃっていいのかしらん、と、こっちがドキドキしてしまうほど。だから面白いんですけどねー。

最初のごあいさつが書かれてから、まだ本に収録されていない現在までのごあいさつを合わせると、四半世紀以上経っているのですが、鴻上さんの考えていることは、ほとんど変わっていません。
ミもフタもないくらい大雑把に言えば、愛ってなんだろう?とか、生きるってタイヘンだ!とか、ありきたりな内容だけれど、一つ一つの言葉が深くて「うん、わかるわかる」って納得しちゃう。鴻上さんのお芝居や本を読んでいると、昔から私のことをよくわかってくれている人と、ひとしきり話したような爽快感が得られるのです。
でも、そう思うのは私だけではないはず。彼の言葉が多くの人の気持ちに響くのは、きっと、彼が何事も真面目に真正面から全身でガーッと受け止めて、いっぱい傷ついて、その結果手に入れてきた言葉達だからだと思うのです。ちょっと、説教臭く感じてしまう箇所もありますが、彼のご両親は、共に教師だったということで、「芸風」と思いませう。

失恋したり、受験に落ちたり、何かに挫折したことのある人なら、彼の一つ一つの言葉の意味が、この本の面白さが、きっとわかるはずです(笑)。

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by june_h | 2007-04-22 20:10 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

私のブログタイトルは、この野村監督の言葉から拝借したものです。「ただバット振ってるだけじゃダメだ。野球は頭を使わないと!」というような意味で監督は使われていると思うのですが、私はまた別の意味で、自分の肝に銘じる言葉として使わせていただいてます。

野村監督は、自分の言葉を持った偉大な野球選手です。
自分には、王貞治や長嶋茂雄のようなカリスマ性も、特異な身体能力もない・・・・・自分の限界、「壁」を認識した所から、彼は初めて自分の頭で考え、自分の言葉を持つようになりました。そして、スコアブックの寄せ集めでしかなかった試合のデータを独自に分析し、その分析結果を基に、戦略を練って選手達に実行させたのです。野村監督のおかげで、日本のプロ野球のデータ分析力は、飛躍的に発展したと思います。

確かに、人間的な魅力や人を動かす力は、王や長嶋や星野に比べて弱いかもしれません。意地汚いほど勝ちにこだわったり、ブツブツ愚痴っぽかったり、選手を褒めるのが下手だったりしますから。阪神の監督時代は、それがモロに出てしまった感じ。でもそれも、彼の「芸風」に思います。

最近では、楽天の監督をされていますが、田中将大選手に注目が集まっています。野村監督の下で、彼がどんな風に成長するか楽しみです。著書では「いくら能力が高くても、1年目の新人投手をいきなり一軍に出すわけにはいかない。じっくり育てていかなければ」なーんて言ってましたが、今の楽天の状況や彼の人気を考えると、そういうわけにいかないでしょうね。

それにしても、日本のプロ野球界は人材不足なんですかねえ。王も長嶋も星野も野村も高齢で、病気になるまで酷使されて・・・・・次に続く人がなかなか出てきませんね。最近、プロ野球全体が地盤沈下気味で、メジャーリーグや六大学野球に押されてしまっていて・・・・・今後が心配。


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by june_h | 2007-04-21 18:07 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)

「この子らに世に出してもらって、この子らに潰されるんや。おれらのブームは、そう長くはつづかへん」

自分を一目見ようと熱狂するお客さん達を前にして、ふと中田カウスの頭に浮かんできた詞。
当時は漫才ブームのまっただ中。うめだ花月のホールで渦巻く喧騒の中、カウスは醒めていました。
自分を応援してくれるお客さん達は、ありがたい存在であると同時に、とても残酷な存在でもある。ブームが去ると、手のひらを返したように、去って行ってしまう。人の心は移ろいやすいもの。

吉本興業、カネの成る木の作り方 エディトリアル

大下 英治 / 講談社


小さな寄席小屋からスタートした吉本興業が、舞台やテレビなど、様々なメディアを通じて、いかにして日本の笑いの文化を支えるまで大きくなっていったのか。エンタツアチャコ、笑福亭仁鶴、桂三枝、横山きよしなどのエピソードも交えながら紐解いていきます。

古くは、木戸銭をディスカウントした薄利多売商法、年功序列にこだわらない実力主義、最近では内弟子制度にとらわれない吉本総合芸能学院(NSC)による人材確保。特に人材育成システムに関してはまるで、欧米のバレエの国立機関のよう。お笑いタレントを養成する機関としては、世界広しといえどもこの吉本だけでしょうね。

それにしても、成功している芸能プロダクションは、奥さんがしっかり者のケースが多いですね。吉本興業の吉本せい、渡辺プロの渡邊美佐。最近では、タイタンの太田光代、OFFICE CUEの鈴井亜由美。

この本の惜しい点は、会社案内みたいな内容に留まっている点。もう少しドロ臭い話も聞きたかったな、というのが正直なところ。

吉本興業所属のタレントは、バラエティ番組には欠かせない存在ですが、今でも花月やルミネTHEよしもと、吉本∞ホールなど、劇場ライヴでの育成を重要視しているそうです。ライヴはお客さんの反応が直に分かりますし、アドリブも鍛えられますからね。
今度、神保町花月もできることだし、吉本のライヴに行って見ようかと思います。

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by june_h | 2007-04-19 20:23 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)

勘九郎から勘三郎へ。
平成中村座ニューヨーク公演から、十八代目中村勘三郎襲名公演までの約4年を追ったルポ。

さらば勘九郎―十八代目中村勘三郎襲名

小松 成美 / 幻冬舎


歌舞伎役者を取り上げたエッセイやルポの多くは、その役者の得意な演目とか、その役者にまつわる歌舞伎のうんちくとか、あくまで「歌舞伎」を切り口にしたものが多いけれど、このルポは違います。
いきなり勘三郎さんの「脚の筋肉」の話から入ります。さすがは小松成美さん。イチローや中田英寿のルポを書いている人だけあります。
そんなわけでこの本は、歌舞伎を知らない人でも、勘三郎の魅力が十二分に分かる内容となっています。
歌舞伎にとどまらない幅広い芝居を務める俳優として、
常に新しい表現を追い求めるアーティストとして、
お客を喜ばせることを何より大切にするエンターテイナーとして、
多くの俳優仲間に愛されるプロデューサーとして、
様々な顔を持つ勘三郎の魅力を堪能できます。

それにしても、勘三郎にも増してスゴいのは、奥様の好枝さん。歌舞伎役者の裏方としての務めを果たす一方で、家事も完璧にこなす良妻賢母です。仕事に明け暮れる勘三郎に代わって、家の一切を取り仕切り、勘三郎のご両親の死に水も取ったそうです。
「私達が離婚したら、この家を出て行くのは哲明(勘三郎)さんの方です」
の詞には、思わず笑ってしまいました。
こんなお姑さんを持つことになる、勘太郎や七之助のお嫁さんは、大変そうです(^_^;)

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by june_h | 2007-04-18 20:19 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

先日亡くなった、ファンクの帝王、ジェームズ・ブラウンの自伝。

俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝 (文春文庫)

ジェームズ ブラウン / 文藝春秋


ジェームズ・ブラウンのグルーヴには湿っぽさがない。シビアなほどにカラッと乾いている。
不安定な家庭環境。容赦のない黒人差別。貧困と暴力が支配するアメリカ南部の社会。彼は生まれ落ちたときから過酷な環境の中で呼吸し、這いずり回り、犯罪にも手を染めながら、内から湧き上がる歌を命綱にして、観客の罵声と賞賛の中で、ショウビジネスの世界を這い上がっていった。彼の周りで、力の無い者は酒と麻薬と孤独の中で次々と死んでいく。彼の生い立ちも音楽もドラスティックだ。

私は彼の武道館公演に2度行った。「なになに?こんなサックスの音、初めて!」「ベースかっこ良過ぎる」とにかくバンドのレベルの高さに、びっくりして口が開きっ放しだった。もし、60年代のアメリカ南部のライブハウスで、こんな音楽を聴いてしまったら、魂までJBのリズムに乗っ取られてしまう・・・・・。気持ち良さを通り越して、恐怖心すら抱いてしまった。

今は、一人でもステージができるツールや環境があるけれど、昔は一人では何もできないし、バンドも大人数だったから、まとめ上げるのが大変だ。バンドメンバーとの軋轢もたくさんあったし、彼の音楽に対するレコード会社の無理解とも戦い続ける必要があった。しかし、人々は、彼のライブパフォーマンスに拍手を惜しまなかった。彼もまた、自身の持つ強い生命力そのままに、一生ステージに立ち続けた。たくさんのアーティストが彼の音楽をリスペクトし、昔も今も、アメリカのブラックミュージックのみならず、世界のミュージックシーンに影響を与え続けている。本を読み進めていると、往年の彼のヒットソングや、彼と関わったビッグアーティストの名前が次々と出てきて、彼らの歌を頭の中で鳴らしながら読むと、面白さ倍増だ。

彼のCDだけではなく、この本を読んで、JBの、ど演歌、ならぬ、どファンク人生を堪能して欲しい。

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by june_h | 2007-04-08 10:09 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

時代劇『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵役でお馴染みの歌舞伎役者、中村吉右衛門のエッセイ。

近況や歌舞伎の事はもちろん、祖父、初代吉右衛門の事や、小さいときの事が、直筆の水彩画と共に描かれています。
特に印象的なのは、実の母親以上に可愛がってくれた「ばあや」の存在。歌舞伎役者の裏方として忙しかった母に代わって、吉右衛門にとって大きな支えであったことが伝わってきます。
面白いのは、どのエピソードでも、奥様や娘さんのお小言で終わるオチになっていること。彼のユーモアやサービス精神、家族への愛情が伺えます。

このエッセイでもそうですが、インタビューなどで吉右衛門さんは「僕には跡継ぎがいないから」とか「僕は芸が下手だから」とかよく自分を卑下して、いじけます。ほかの人のいじける姿はイヤなものだけど、彼が言うとなんだか微笑ましくって、彼の芸風の一部にさえ思えてくるから不思議です。

優しくて温かい筆遣いの水彩画とは対照的に、舞台の上の吉右衛門さんは、じっくり描きこまれた油絵のよう。
ステージライトの中で見せる笑いや涙は、薄っぺらなものではなく、複雑な感情が幾重にも塗り重ねられたもの。その役が背負っている運命や人柄が浮かび上がって影となり、フィクションの人物なのに、実際に生きている人のような錯覚を覚えてしまうのです。
こう感じるのも、吉右衛門さんの芸に対するたゆまぬ努力と経験と、役に対する深い理解があるからだと思います。

吉右衛門さんを見るまでは、歌舞伎は型で見せるもので、演じている役者さんの内面はニュートラルだと思っていました。でも吉右衛門さんは実際に傷ついている。そんなふうに思って深く感動してしまいました。

吉右衛門の俊寛は、特に必見です!私は、吉右衛門の俊寛が見せるラストシーンの表情を見て、「執着が人を孤独にするのだ」と悟り、4階席で号泣してしまいました。その日の観客の中で、自分が一番感動している自信がありました(笑)。

今週末のドラマ、鬼平犯科帳スペシャルが楽しみです!

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by june_h | 2007-04-03 20:28 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(4)