時代劇『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵役でお馴染みの歌舞伎役者、中村吉右衛門のエッセイ。

近況や歌舞伎の事はもちろん、祖父、初代吉右衛門の事や、小さいときの事が、直筆の水彩画と共に描かれています。
特に印象的なのは、実の母親以上に可愛がってくれた「ばあや」の存在。歌舞伎役者の裏方として忙しかった母に代わって、吉右衛門にとって大きな支えであったことが伝わってきます。
面白いのは、どのエピソードでも、奥様や娘さんのお小言で終わるオチになっていること。彼のユーモアやサービス精神、家族への愛情が伺えます。

このエッセイでもそうですが、インタビューなどで吉右衛門さんは「僕には跡継ぎがいないから」とか「僕は芸が下手だから」とかよく自分を卑下して、いじけます。ほかの人のいじける姿はイヤなものだけど、彼が言うとなんだか微笑ましくって、彼の芸風の一部にさえ思えてくるから不思議です。

優しくて温かい筆遣いの水彩画とは対照的に、舞台の上の吉右衛門さんは、じっくり描きこまれた油絵のよう。
ステージライトの中で見せる笑いや涙は、薄っぺらなものではなく、複雑な感情が幾重にも塗り重ねられたもの。その役が背負っている運命や人柄が浮かび上がって影となり、フィクションの人物なのに、実際に生きている人のような錯覚を覚えてしまうのです。
こう感じるのも、吉右衛門さんの芸に対するたゆまぬ努力と経験と、役に対する深い理解があるからだと思います。

吉右衛門さんを見るまでは、歌舞伎は型で見せるもので、演じている役者さんの内面はニュートラルだと思っていました。でも吉右衛門さんは実際に傷ついている。そんなふうに思って深く感動してしまいました。

吉右衛門の俊寛は、特に必見です!私は、吉右衛門の俊寛が見せるラストシーンの表情を見て、「執着が人を孤独にするのだ」と悟り、4階席で号泣してしまいました。その日の観客の中で、自分が一番感動している自信がありました(笑)。

今週末のドラマ、鬼平犯科帳スペシャルが楽しみです!

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# by june_h | 2007-04-03 20:28 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(4)

相手と「切り結ぶ」ことをしなければ、良い表現は生まれない。
自分が見こんだ人間と、とことん向き合い、本音でぶつかり合うことによって、魅力的な本を次々と生み出し、ミリオンセラーを連発する名物編集者、見城徹が小学校で授業をした時のことをまとめた本。

最初、見城も小学生もお互い戸惑っていた。見城は小学生を教えるのが初めてだったし、小学生も「編集する」という作業がよくわからなかった。しかし、見城は、小学生の素直な言葉が書かれた作文に感動し、手加減なしで小学生にぶつかることを決めた。彼らの内面に深く切り込んで、より魅力的な言葉を掘り起こすために。見城の指導は熱かった。
小学生もグループ作業を通して、本音で意見をぶつけ合う。お互いの言葉に傷ついたり、行き詰まったりしながらも、少しでも良いものを作るために、400字の作文の枠を超えて、写真や絵や詩を取り入れた立派な「作品」を完成させる。作品の魅力がどんどん引き出される過程がわかって面白い。

編集作業を通じて、お互い本音でぶつかり合うことや、一つの作品を作ることの面白さを、小学生は知った。また、素直な感動をぶつけ合う小学生を見て、見城は初心に戻った。お互い得るモノがあったようで、正直とてもうらやましい。

編集の面白さだけではなく、人と本音でぶつかり合うこと、皆で一つのものを作り上げることの素晴らしさがわかる本。

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# by june_h | 2007-04-02 20:51 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

長谷川滋利は、日本の野球選手の中では数少ない、自分の言葉を持っている人だ。

過大評価するわけでもなく、卑下するわけでもなく、冷徹に分析して「等身大の自分」を見つめる。これはとても難しい。
でも、彼はそれをずっと続けた。一流選手になるために。野球を続けるために。勝つために。環境に「アジャストメント」するために。

彼は自分を分析した結果、他の選手に比べて、突出した身体能力を持っているわけではないということを知った。そこで彼は、自分の弱点を消し、強みを生かすためにはどうしたらいいか考え、目標を立て、それに向かって地道に努力した。
その結果、日本の野球界ではもちろん、メジャーリーグでも大きな成果を上げることができた。

彼の姿勢は、野球以外にも十分通じるものがある。
2006年で野球を引退してしまったが、野球で培った洞察力や分析力を生かせば、他の世界でも十分に活躍できる人だと思う。これからが楽しみだ。

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# by june_h | 2007-04-01 11:04 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)

ダ・ヴィンチ展とはうって代わって、人もマバラで、静かな展覧会でした。
一枚一枚、じっくり観られたので良かったです。
ダ・ヴィンチ展と違って、原画ばかりだったし(笑)。

ギリシャ神話や、古代ローマの人物をモチーフにした作品が多かったので、わりと楽しめました。高校の美術の時間に作った、エッチングの版画を思い出しました。

特に、パルミジャニーノさんの版画が気に入りました。輪郭線ナシで、線の濃淡や粗密だけで人物や風景を表現しているので、ほかの版画と違って柔らかい印象を受けました。

チケットのお値段も、ほかの美術館の特別展と違って割安なので、古代ギリシャやローマに興味のある方、上野公園の人ごみに疲れた方にはおススメです。
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# by june_h | 2007-03-31 14:59 | 美術展 展覧会 | Trackback | Comments(0)

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モノスゴイ人ダラケ。平日で、こんなんだったら、土日は考えただけでもオソロシイ・・・・・。

この特別展は、会場が二つに分かれていて、「受胎告知」の絵が見られる第1会場に入るまで、行列20分待ち。ディズニーランドか!?列の先は、博物館の門まで続いていました。

やっと建物の中に入れたと思ったら、今度は持ち物検査と金属探知機がお出迎え。空港か!?

そんなこんなで、ずいぶん絵にたどり着くまで時間が掛かって早くも疲れが出始め・・・・・ダ・ヴィンチの絵は好きだけどさぁ・・・・・受胎告知はそんなに好きじゃないんだよねぇ・・・・・だって、初期の作品だから、表情が固いんだもの・・・・・。

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お次は第2会場。満員電車じゃ。しかも、春休みのせいか、親子連れいっぱい。「熱いよう」「痛いよう」「見えないよう」ギュウギュウ押し合いながら文句たれる子供。私も文句言いたい。
これでダ・ヴィンチの原画が観られるなら、我慢できるんだけど、原画がひとっつもないのね。たとえメモでもスケッチでも、彼の直筆が見たかったのよ。解説なんて、あとでいくらでも本で調べるからどうでもいいのよ・・・・・。

テーマ作りや見せ方はウマいなぁと思ったけど、「受胎告知」の絵に予算をかけたら、ほかの絵に使うお金はなくなったのかしら、などと思ってしまったのでした。
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# by june_h | 2007-03-30 20:07 | 美術展 展覧会 | Trackback | Comments(0)