西川美和監督作品ということで楽しみにしていましたが、期待を裏切らない映画。
今回も唸らされました。うー!

里子が、札束に火を点けて、貫也が入っている風呂の中に投げ入れて「釜茹での刑」にしているとき、ふと思いました。
似た話、確か落語にあったな・・・・・「蹴転(けころ)」だっけ。
金に困った男が、元遊女の妻に客引きさせるけど、結局、嫉妬しちゃってうまくいかないって話。この映画は、男女が逆だけど。

でも、もう少し見ていくと、完全に、三遊亭圓朝の世界。
恐妻が、頼りない旦那をけしかけて、エグいことをさせるという・・・・・。
圓朝物では、奥さんは、ただ「怖くて強くて残酷な」だけのキャラですが、西川監督は、女性目線で、妻 里子の人物像と内面を鋭く描いています。
この映画を見ていると、里子の独り言が、ずっと聞こえているようでした。

一見、貫也がダメダメで、里子がしっかり者のように見えるんですけど、結局は、貫也に依存しているんですよね。

「私には、人を惹き付ける力がなかった。だから、彼の人生に乗っかっただけだった」
「人生、自分の足で立たないと、卑怯なことになっちゃうわよ」

それで、里子は、自分のように、依存せずにはいられない女性達を、貫也を使ってハメていく。

貫也が女性と一緒にいる間、里子は、一人エッチして、手を拭いたティッシュで鼻をかんでる。なんたる孤独と寂しさ・・・・・。

重量挙げの巨漢の女性と寝る貫也に、「気の毒ね」と言う里子。
しかし、貫也は、言った。
「お前の目に映っている世界の方が、よっぽど気の毒だ」

横浜のクイーンズスクエア(みなとみらい駅)にある長い長いエスカレーターを、一人で降りていく里子。
惨めな気持ちで、どんどん落ちていっているのが、よくわかりましたが、このカットにゾッとしました。
私も正しく、暗い気持ちで、あのエスカレーターを降りていったことがありましたから・・・・・。

机で寝てしまった里子を担いで、寝床に寝かせる貫也。
このカットも、里子が貫也ナシには、一人で歩けないことを暗示しています。

最初は、店の開業資金のために結婚詐欺を始めたはずなのに、だんだん、何のために始めたかわからなくなってくる。

降りしきる雨の中、転んでしまい、差し出された子供の手を取る。
ああ、私は、こんな小さな子供の手にさえすがらなければ起き上がれないほど、惨めな存在なのだ・・・・・と。

そして、里子と同じように、男に依存せずにはいられなかった玲子が、自立して街中を歩いている姿を見て、眩しく思うのです。

「転機」は、やって来た。
貫也が、殺人未遂で逮捕され、服役する。
実際は、彼がやったことではないが、彼が使っていた包丁によって、犯人として追い込まれる。
これも、圓朝物によく出てくる「刃物のカルマ」ってやつ。

ラストシーンは、一人黙々とフォークリフトを操る里子の姿。
一見、惨めに見えるけど、ようやく里子は、これで「独り立ち」できたのかもしれません。

とにかく、一つ一つのカットに無駄が無い上に、セリフよりも雄弁です。

阿部サダヲも松たか子も頑張りました。

阿部サダヲのベッドシーンがいっぱい出てきましたが(笑)、妻とは一つもなかったですね(^^;
松たか子は、短いラストシーンのために、フォークリフトの免許を取ったんですよね。

松たか子が、里子役をやっているのも、とても納得。
今まで、松たか子は、太宰治の妻とか、金子みすゞとか「ダメ夫に仕える賢妻」役が多かったと思うんですが、今回の里子では、こうした「賢妻」の陰がよく描かれているように思います。

とにかく、いろいろ胸に突き刺さる映画でした。
男性が見たら、全然違った感想になるのではないでしょうか。
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by june_h | 2012-09-13 12:30 | 映画 感想 | Trackback | Comments(2)