2010年 04月 01日
「看取りの医者 終末期医療の訪問医が見届けた自宅で死ぬということ」 平野国美 著 小学館
彼が立ち合ってきた、印象的な患者の「看取り」を軸に、訪問医の仕事と自宅療養について語られています。
医者というと、病院で患者を診察するのが普通ですが、訪問医は、患者の自宅に出向いて診察する医者です。
彼が、今の日本では珍しくなってしまった訪問医になろうと思ったきっかけは、いくつかあります。
幼少時、生死の境をさ迷うほどの重い肺炎になったとき、訪問医に治療してもらったこと。
研修医時代に、看護婦に頼まれて、自宅療養していた彼女の父親を看取って、深い感銘を受けたこと。
訪問医と自宅療養の環境が整えば、軽度の患者が病院のベッドを占有してしまって、重病の患者が入院できないというような問題を避けられるのではないかと思ったこと。
そして、彼が研修医のとき、延命治療の在り方に疑問を持ったことも大きな理由の一つです。
瀕死の患者に馬乗りになって肋骨が折れるような心臓マッサージをしたり、家族が患者の手を握るのも憚れるような管だらけの身体にしたり。
不慣れな病院で延命を続けて苦しむよりも、住み慣れた自宅で、家族に囲まれながら安らかな旅立ちをする方が、患者にとっても家族にとっても良いのではないかと思ったのです。
でも、自宅療養は、まだまだいろいろ課題があります。
入院治療よりも、介護する家族の負担が大きいですし、ヘルパーや看護師とも連携が必要です。
何より、訪問医自体が少ないのです。
現在は、自宅療養を希望していても、できないことが問題です。
政府は最近、自宅療養を推進する方針を取りつつありますが、これはあくまで医療費抑制のため。今度は、入院治療を希望していても、自宅療養を強いられる患者が出てくるのではないかと、平野さんは懸念しています。
読んでいて印象的なのは、平野さんが、患者さんとのコミュニケーションをとっても楽しんでいるということ。
会話を通して、患者さんの好きな食べ物や趣味、家族構成や生い立ちまで、まるで古くからの友人のように知っています。患者の家族とも仲良しです。こんな平野さんだからこそ、患者さんも家族も、信頼されているのだと思います。
やっぱり、患者さんの病気だけではなく、性格特性や生活習慣も知らなければ、そして何より、患者さんとの信頼関係や心の交流がなければ、患者さんを癒したり治療したりすることは、難しいかもしれません。