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「キス・アンド・クライ 」 ニコライ・モロゾフ 著 講談社

フィギュアスケートの多くのメダリストを育てたニコライ・モロゾフのエッセイです。
「キス・アンド・クライ 」 ニコライ・モロゾフ「キス・アンド・クライ 」 ニコライ・モロゾフ
トリノオリンピック金メダリストの荒川静香のコーチとして一躍有名になった彼ですが、選手としては、成功したわけではありませんでした。

最初は、シングルスケーターでしたが、限界を感じて17歳でアイスダンスに転向。しかし、結局、満足な成績をおさめられぬまま引退。スケートの世界から完全に遠ざかろうとしていたとき、コーチの仕事を一緒にやってくれないか、と声をかけてきたのが、多くのメダリストを育てたタチアナ・タラソワでした。彼女の下で、アレクセイ・ヤグディンを育てることで、彼はコーチとしてのノウハウを吸収していきました。

荒川静香のコーチを担当することになり、モロゾフが直面したのは、欧米人とは異なる日本人の「独自性」でした。
練習熱心で完璧主義な傾向が、日本人選手の大きな力となっていましたが、それが裏目に出て、強いプレッシャーとなり、うまく力を発揮できないことも。
そのため、選手達のメンタル面のケアが重要でした。
練習の方が調子の良い高橋大輔と、本番の方が力を発揮できる安藤美姫とは、調整の仕方が同じというわけにはいきません。
荒川静香の練習のモチベーションを上げるために、サッカーの大黒選手をリンクに呼んだり、試合のことで頭がいっぱいの高橋大輔に、わざと「試合で使う曲を忘れてきちゃった!」と伝えて気持ちを逸らしたり。技術指導以外にもいろいろ工夫しています。

コーチは、選手との信頼関係ももちろん重要ですが、選手についているトレーナーやエージェントなどとの意思の疎通が大事です。
高橋大輔とは、選手対コーチとしての信頼関係は築けていたようですが、エージェントなどとの兼ね合いから、結局、モロゾフの下を離れる決断をしたようです。

特に、安藤美姫の指導には、並々ならぬやりがいを感じているようです。
彼女を担当したコーチ達は、口を揃えて「彼女はアップダウンが激しくてやりにくい」と言ったそうですが、モロゾフは、そこを感情が豊かととらえて、メンタル面のコントロールに励んでいます。
また、彼女とは、突然父親を亡くした経験も共通しているので、親近感があるようです。
モロゾフの父親は、仕事上のトラブルから射殺され、犯人がいまだにわかっていないんだそうです。

浅田真央からもコーチの打診があったそうですが、モロゾフは、安藤美姫を選んだようです。

タイトルの「キス・アンド・クライ」とは、演技を終えた選手が、審査結果を待つ場所のことですが、誰が付けたんでしょうか!?絶妙なネーミングだと思います。
キス・アンド・クライで笑うために、どの選手も、コーチも、日々努力しているのです。
by june_h | 2010-08-17 20:22 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)