【映画:あらすじ・ネタバレあり】アクト・オブ・キリング

どんな戦争映画よりも、醜悪で残酷です。
戦闘のリアルさに数十億円かけたって、この映画が描くリアルには、決してかなわないでしょう。

この映画は、できるだけ多くの方々に観ていただきたいです。
映画評論家の町山智浩さんが、2月の時点で
「今年の最高傑作」
と評した映画です。
そして、彼の語るあらすじを聞いて、私は
「絶対に観に行かなければならない」
と思いました。

舞台はインドネシア。
主人公はアンワルと呼ばれる一人の老人。
一見、穏やかな佇まいの男性ですが、その昔、千人もの国民を殺したインドネシアの「英雄」です。

太平洋戦争後、インドネシアでは、独立国家へと導いたスカルノが大統領となっていましたが、中国など、共産主義国家と結びつきを強めていたため、アメリカ政府は不快に思っていました。

1965年、アメリカ政府の支援を受けたスハルト将軍がクーデターを起こし、スカルノは失脚(いわゆる9.30事件)。
「共産主義者殲滅」の名の下に、華僑を中心とした100万人もの人々が虐殺されました。

虐殺実行の中心となったのは、プレマンと呼ばれるゴロツキ集団と、パンチャシラ青年団と呼ばれる民兵組織。
アンワルは、プレマンの一人でした。

この映画は、アンワルとその仲間達が、当時の虐殺を再現する様子を追っています。

あるビルの屋上では、針金で絞殺する様子を得意気に語りつつ再現していました。
アンワルには、罪悪感は微塵もありません。

だって、これは、「悪しき共産主義者」を倒すための「正義の行為」で、彼は「救国の英雄」として称えられていたからです。

アンワルは、自分の「英雄的行為を記録する映画を撮るのに夢中でした。
彼の元には、虐殺に加担した昔の仲間達が、次々と集まってきました。
彼らの多くは、軍や政府の要職に就いていました。

彼らは、当時の虐殺や拷問シーンを、楽しそうに再現していました。
衣装は、こっちがイイとか。
もっとこうした方がイイとか。
出来上がったシーンは、コントのようでした。

まるで
「オレ達、甲子園で優勝したよな!」
くらいのテンションで
「オレ達、いっぱい殺したよな!」
「14歳の娘は、たまらんよな!」
と、嬉々として語り合っているのです。

だって、彼らは「英雄」だから。
テレビ番組でも、女性アナウンサーに
「効率的に共産主義者を倒す方法を考案したんですね!」
なんて言われて、悦に入っています。

でもね。
彼らは、拷問シーンを撮りながら、ふと呟くのです。
「共産主義者が残虐だったなんてウソだよな。オレ達の方が残虐だったよな」

アンワルも、自分が殺した人達が蘇って、自分を苦しめる夢に、ずっとうなされていました。

あるロケでは、村を焼き払い、住民達を虐殺するシーンを再現していました。
撮影が終わっても、虚構と現実の区別ができない子供達は、ずっと泣いていました。
芝居とはいえ、自分達の目の前で、親達が兵士に次々と連れていかれ、酷い暴力を受けたからです。

虚構と現実の区別がつかなくなっていたのは、子供達だけではありませんでした。

アンワルは呟きました。
「オレは、この子供達の親をたくさん殺した。この子供達の未来は、どうなってしまうんだろう・・・・・」

次のシーンで、私は、息を呑みました。
アンワルが、血糊をたくさん付けて、拷問されている側の人間を演じていたのです。
・・・・・なんでこんなことしようと思ったんだろう。

「おじいちゃんが酷い目に遭っているよ。おまえ達、よく見ておきなさい」
孫達を膝に乗せ、自分が拷問されているVTRを見せるアンワル。
孫達は嫌がって、どこかに行ってしまいました。

そして、たくさんの人を絞殺したビルの屋上へ、再び向かったアンワル。

「オレは、たくさんの人達を殺した。その報いを、いつか受けるのかな・・・・・」

そう呟く彼の目に映っているのは、「英雄的行為」から罪深い地獄絵図に変わった彼の過去。
その全てが彼を苛んでいるのが、ありありと伝わってきました。

そして、彼は、猛烈に嘔吐し始めたのです。

私は悟りました。
彼は、加害者であり、なおかつ被害者だったのだと。

本当の悪人は、安全な場所から、自分の手を汚さず、国民同士の憎しみを煽ったマスコミ。
そして、彼を英雄だと持ち上げた権力者と、背後で操ったアメリカ政府なのだと。

日本も無関係ではありません。

当時、スハルト第三夫人だったデヴィ夫人は、クーデターで軟禁状態に置かれました。
自分を守る兵士達の銃口が、いつ自分に向けられるか分からない、緊迫した状態だったのに、アメリカの片棒を担いでいた日本政府は、デヴィ夫人を助けようとしなかったのです。

アンワルは、クーデターが無ければ、ただのゴロツキで終わったはずです。
殺した千人もの人達とは、何の恨みも、縁もゆかりもなく、カルマを背負うことはなかったはずです。

戦争は、アンワルのような、加害者であり被害者である人をたくさん作るということだと、思い知りました。


P.S.
異様だったのはエンディングロール。
スタッフの名前の約半分が「ANONYMOUS(匿名)」と書かれていたこと。
こんなエンディングロール、初めて見ました。
みんな「誰か」に知られたくなかったのでしょう・・・・・。
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by june_h | 2014-05-06 10:39 | 映画 感想 | Trackback | Comments(0)