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『もう抗生物質では治らない』 マイケル シュナイアソン 、マーク プロトキン著 日本放送出版協会


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人間よりも細菌のほうが、ずっと子供思いだな。抗生物質に対抗する部品を娘細胞に渡して、自分は死んでいくんだから。
そして、娘達は耐性を身につけて、強力な細菌に進化する。そして、どの抗生物質も効かないMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)みたいな細菌が生まれてくる。

人間が抗生物質を発見したときから、宿命的に続いてきた、耐性菌の出現と新薬開発のイタチごっこのルポ。

MRSAの院内感染とか、耐性菌の問題は、新しい問題なんだと思ってた。でも、ペニシリンが発見された1940年代からすでに、研究者の間では知られていた。

抗生物質は、人間の寿命を大幅に伸ばし、家畜の成長を促進する「魔法の薬」として、製薬会社によって大量に売られ続けた。耐性菌が出現しても、それを死滅させる抗生物質を新たに開発することで、抗生物質の神話は保たれてきた。耐性菌との戦いは、必ず人間が勝利すると信じて。
比較的安い値段で手に入り、即効性があるため、人々もこれを求めた。抗生物質が効かないはずのウイルス性の風邪にも、医者は万能薬のように処方し、乱用は数十年続いた。結果、MRSAのような強力な細菌が出現し、院内感染に留まらず、市中にも広がった。
60億個の細胞を持つ人間が、1個の細胞ですらない細菌に負けてしまう。これが現実だ。

細菌と人間の戦いだけではない、抗生物質をめぐる研究者、製薬会社、国家の戦いも描かれている。抗生物質の乱用は危険であるとして、家畜への使用禁止を求める研究者と、抗生物質は「成長促進剤」であるとして、ロビー活動を展開する製薬会社。金が絡んだ途端に、捻じ曲げられる真実。

読めば読むほど絶望的になるが、抗生物質に代わる新たな抗菌薬として、ファージやペプチドに対する期待についても書かれている。しかし、実用化にはまだまだ時間が掛かるようだ。

素人考えでは、細菌をやっつけるのではなく、免疫力を高める薬を開発したほうがいいんじゃないかと思ってしまう。新たな抗菌薬を開発したって、どうせ細菌は強くなるのだから。抗生物質のせいで、それまでは何の害もなかった細菌まで毒性を持つようになったとか。恐怖政治で人を押させつけすぎて、かえって憎悪や革命を助長する、どっかの政治ベタな国みたいだぞ。

感染症は老人や子供だけの問題ではない。過労やストレスなどで免疫力が落ちた若い人の間にも、抗生物質の効かない結核が増えているという。

あなたは、手洗い、うがい、してますか?

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by june_h | 2007-06-09 09:47 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(0)