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『シズコさん』 佐野洋子 著 新潮社

絵本『100万回生きたねこ』の著者、佐野洋子さんの自伝的エッセイ。

『シズコさん』 佐野洋子
『シズコさん』 佐野洋子
老人ホームで、歯の無い口をモグモグさせている母親を見ながら、自分と母親との関係や、生い立ちを回想する著者。

小さいときから、母親との葛藤が強かった。
「母に愛されなかった」「母に可愛がってもらえなかった」という思いからか、母親が化粧する姿や大きな胸を「いやらしい」と嫌悪した。見栄っ張りで平気でウソをつく言動を軽蔑した。ことあるごとに、母親に反抗した。

母親は「ありがとう」「ごめんなさい」を言わない人だった。だから著者も「ありがとう」「ごめんなさい」を絶対言わなかった。

自分の貯金をはたいて、豪華な老人ホームに母親を入所させているのは、母親を憎んでいることの「罪滅ぼし」だった。
私は母を愛していない・・・・・そう何度もつぶやくのは、本当は母親を愛しているから。

著者は60代。母親は80代。
いくつになってもわだかまりは消えない。

でも、老人ホームで、どんどん「呆けて」子供のようになっていく母親を見ながら、著者の頑なな気持ちがだんだんほぐれていく。

戦後、貧しくても工夫して、美味しいご飯を食べさせてくれたではないか。父親に先立たれても、子供に死なれても、必死で育ててくれたではないか・・・・・。何度も何度も昔の思い出を反芻しながら、母親を憐れみ、母親に感謝する。
そして、母親が亡くなる少し前。

「ごめんね、母さん、ごめんね。私悪い子だったわね。ごめんね」
「私の方こそごめんなさい。あんたが悪いんじゃないのよ」

泣きじゃくって、母親も娘もお互いを赦し、自分を赦すことができた。
「私は母親が呆けたことに感謝する」
ここまでくるのに数十年かかった。でも、最後に素晴らしい親子になれた。

親子関係に悩んだ人は、きっと共感できるエッセイだと思う。

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Commented by Ruri at 2009-06-27 22:33 x
こんばんは。
いま私の手元に佐野洋子さんの「神も仏もありませぬ」があります。
次に読みたいと思っていたのが、この「シズコさん」です。
読んでみますね。
Commented by june_h at 2009-06-28 16:41
>Ruriさん
私には読みにくい文章で、同じエピソードが何度も繰り返されて、なかなか読むのが大変でした。でも、螺旋を描くように、行きつ戻りつしながら、だんだん思い出が昇華されていくプロセスが、ありのまま描かれている印象です。読んで良かったと思える本でした。
by june_h | 2009-06-22 20:21 | 本 読書 書評 | Trackback | Comments(2)