2009年 06月 22日
『シズコさん』 佐野洋子 著 新潮社
老人ホームで、歯の無い口をモグモグさせている母親を見ながら、自分と母親との関係や、生い立ちを回想する著者。
小さいときから、母親との葛藤が強かった。
「母に愛されなかった」「母に可愛がってもらえなかった」という思いからか、母親が化粧する姿や大きな胸を「いやらしい」と嫌悪した。見栄っ張りで平気でウソをつく言動を軽蔑した。ことあるごとに、母親に反抗した。
母親は「ありがとう」「ごめんなさい」を言わない人だった。だから著者も「ありがとう」「ごめんなさい」を絶対言わなかった。
自分の貯金をはたいて、豪華な老人ホームに母親を入所させているのは、母親を憎んでいることの「罪滅ぼし」だった。
私は母を愛していない・・・・・そう何度もつぶやくのは、本当は母親を愛しているから。
著者は60代。母親は80代。
いくつになってもわだかまりは消えない。
でも、老人ホームで、どんどん「呆けて」子供のようになっていく母親を見ながら、著者の頑なな気持ちがだんだんほぐれていく。
戦後、貧しくても工夫して、美味しいご飯を食べさせてくれたではないか。父親に先立たれても、子供に死なれても、必死で育ててくれたではないか・・・・・。何度も何度も昔の思い出を反芻しながら、母親を憐れみ、母親に感謝する。
そして、母親が亡くなる少し前。
「ごめんね、母さん、ごめんね。私悪い子だったわね。ごめんね」
「私の方こそごめんなさい。あんたが悪いんじゃないのよ」
泣きじゃくって、母親も娘もお互いを赦し、自分を赦すことができた。
「私は母親が呆けたことに感謝する」
ここまでくるのに数十年かかった。でも、最後に素晴らしい親子になれた。
親子関係に悩んだ人は、きっと共感できるエッセイだと思う。
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